12月14日(火)14:00-16:50
「ひきこもりの子をもつ家族のライフプランを考える」
12月14日(火)、青山学院大学近くのアイビーホール青学会館にて、本連続セミナーの最終回となる「年齢の高いひきこもりの方への対応の一助として(2)~ひきこもりの子をもつ家族のライフプランを考える~」 が行われました。
ひきこもり問題の第一人者である精神科医の斎藤環先生に基調講演をしていただき、その後ファイナンシャルプランナーの畠中雅子先生に、「ひきこもりのライフプラン」についてお話いただきました。
斎藤先生は、「ひきこもり」のお子さんを抱える家族、そして支援にとって、もっとも重要な問題のひとつは「経済問題」だといいます。「ひきこもり問題は、中流以上の家庭の問題だという誤解がありますが、近年では、経済的に豊かではない家庭において「ひきこもり」が問題になっていることが明らかになってきています。とくに経済的に余裕がなく、医療につながることもできず、本人が意欲をもてないままひきこもり続けているケースへの対応は非常に難しいものがあります。」

そして、ひきこもりの「長期化」と「高年齢化」という問題は、ますます深刻化しているといいます。「原因は大まかに言って2つあります。1つは、数年以上にわたるひきこもりを経験した人は、なかなか抜けられないということです。長引きやすいということが一つ。もう一つ、最近では就労後にひきこもるということが増えた。一旦就労して、退職してからひきこもる。30歳を過ぎてから初めてひきこもるというケースが珍しくないのです。」最後に、ひきこもりのライフプランの重要性とともに、ひきこもり問題に取り組む時に大事にしてほしい心構えとして「つねに最悪に備えつつ、最善を希望しなさい」というメッセージを伝えて頂きました。
畠中先生からは「ひきこもりのお子さんを抱えたご家族が、お子さんが働けないとしても生きていけるというライフプラン、ファイナンシャル・プランをどのように立てるか」というテーマで具体的なライフプランニングについてご講演いただきました。お金の話は多くの家庭で避けられがちで、とくにひきこもりのお子さんを抱えた家庭では考えたくない問題かもしれませんが、冷静に「子どもが働けなくても今後も生活していけるだけのお金の計画」を立てることは、将来への不安に追い詰められがちな家族にとっても子ども自身にとっても重要なサポートになりうる、という新しい視点を示して頂きました。そうした生活設計の具体的な方法として、持ち家の賃貸への建て替えといった方法があるとのことです。また、ひきこもっていない兄弟・姉妹がいる場合に親ができる配慮、遺言書の作成、成年後見制度といったプランニングのポイントについても詳しく教えて頂きました。
11月16日(火)13:00~14:50
「いま「若者」は何を考えているのか(若者の生活意識と働く意識)」
11月16日(火)、国立オリンピック記念青少年総合センターにて、岩間夏樹先生を講師にお招きし、講演「いま「若者」は何を考えているのか(若者の生活意識と働く意識)」がおこなわれました。
社会学をご専門にされている岩間先生からは、昭和44年以来継続されている日本生産性本部の「新入社員意識調査」や、最近のマンガに描かれる若者像など、さまざまな資料にもとづいて「現代の若者の仕事に対する意識の特徴とその背景」を分かりやすく解説していただきました。
ニートやひきこもりに限らず、多くの若者が「自分に合った仕事って何だろう」と考えているといいます。その背景には、次のような3つの事情があるといいます。
第一に、高度経済成長の頃までは「生活を成り立たせるために働く」という動機づけが明確でした。しかし、親の世代が身を粉にして働いたおかげで実現した豊かな家庭に生まれ育ち「生活できる」ことが当たり前の前提になっている現代の若者にとっては、働くということは「自己探求」や「自分探し」の一環になっているといいます。しかしながら、団塊の世代などの上の世代にとっては、仕事の場は「自己形成の場」とは考えられていないため、若者の意識とギャップが生じているといいます。
これと関連して、第二に、今の若者にとって、働くことが「自分さがし」という「いってみれば答えのない方程式を解くような、そういう所に入り込んでしまっている。適当なところで見切りをつけて、どこの会社に行っても、どこへ就職しても同じじゃないかと折り合いをつけてくれるといいのですけれど、折り合いがつかないとなかなか職に就けないという循環の中に入ってしまう」という現状があります。こうした傾向はいわば「働くことの私事化」であり、働くことが家族や何か他人のために献身することから、自分のためにすることに変わった、といえます。

働くことの私事化の一方で、働くことのコモディティー化も起きているといいます。コモディティーとは「ありふれた日用品」ということで、働くことが、個人のアイデンティティとつながるようなものではなく、「誰がやっても同じ」というものになってしまったことが、最近の状況としてあるとのことです。
以上、(1)働くことの動機づけの不透明化(「生計を立てる」から「自分探し」へ)、(2)「誰かのために働く」というある意味では「多少つらいことがあっても踏ん張りの効く働き方」から、「自分のために働く」という「踏ん張りの効きにくい働き方」への変化(働くことの私事化)、(3)最近のデフレ傾向の中で効率が追求された結果、多くの領域で働くことが「誰がやっても同じ」という退屈なものになった(働くことのコモディティー化)、という3つの変化が、若者の「働くこと」の難しさの背景になっているとのことでした。
最後に、新入社員意識調査とニートの若者の調査を対比して、ニートの特徴としては「対人関係の苦手意識と弱気さ」が確認できるが、「働くことへの意識」について両者の間にはほとんど差がない、という興味深いデータを紹介していただきました。
11月2日(火)14:00-16:30
「生活保護制度と若者支援」
11月2日(火)、渋谷の国立オリンピック記念青少年総合センターにて「生活保護制度と若者支援 年齢の高いひきこもりの方への対応の一助として(1)~公的な制度の紹介~ 障害者年金制度・成年後見制度等」と題して講演が行われました。
ご登壇頂いた講師の先生方は、新保美香先生(明治学院大学教授)、町田恵子先生(社会保険労務士)、池田惠利子先生(いけだ後見支援ネット)のお三方です。はじめに新保先生から「生活保護制度と若者支援」をテーマに基調講演をいただきました。
生活保護制度は、(1)国民に無差別平等に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する。(2)あわせて「自立の助長」を行う。(3)「足りない部分を補う」(補足性の原理)、という3つの理念をもった制度です。
「無差別平等」とは、貧困に陥った理由は問わないことを意味しています。たとえば、大工として働いていたが脳梗塞で倒れたために仕事ができなくなってしまったAさんのケースでも、スナックを経営していたが不景気によりうまくいかなくなり借金を重ねたBさんのケースでも、現在「健康で文化的な最低限度の生活」が実現できていなければ同じように「要保護性」が認められます。
次に、「自立」の助長とは、自分の人生を自分自身で創っていくことをサポートすることであり、生活保護から抜け出るように働くことが「自立」と考えてしまうのは間違いです。自立には「3つの自立」があり、1つ目は自分で自分の健康・生活管理を行う「日常生活における自立」。2番目は社会的なつながりを回復・維持する「社会生活における自立」。3番目が「経済的な自立」です。仕事があって家があっても、人との関係、社会とのつながりがないと、また路上に戻ったり、仕事を辞めてどこかに行ってしまうということがあり、社会的なつながり・居場所の重要性が近年注目されているとのことです。

「補足性」とは、足りない部分を補うことで、自分の貯金や家族の援助がある場合にはそれを先に利用することが求められるということです。「生活保護制度は、国民の権利として誰でもが申し込むことができる制度ですが、『足りないところを補う』制度なので、何が足りて何が足りないのか、プライバシーに立ち入ること、話しにくいこともある程度は最初にお話しいただかなくてはいけない」とのお話でした。
生活保護のハウツーではなく制度を支える理念を中心に、支援者として、また当事者として生活保護制度とどのように付き合っていけばいいのか、基本的な考えを分かりやすくお話し頂きました。
続いて、公的な制度の紹介として町田恵子先生から障害年金制度について、池田惠利子先生から後見人制度について解説してもらいました。町田先生からは、年金制度の基本的な仕組み(国民年金+厚生年金の2階建て構造、等)や障害基礎年金の請求時のポイント(認定のチャンスは状態が変わらない限り一度きり、等)といった役に立つノウハウをたくさんお教え頂きました。
池田先生からは、後見人制度が「判断力を十分にもたないという方について、本人の権利を守るための制度である」という後見人制度の基本理念と、後見人をつける場合に注意すべき点について、詳しくお話頂きました。
10月19日(火)14:00-17:00
「コンパス実施団体見学と講義」
講演テーマ:家族支援について
NPO法人「星槎教育研究所」(新宿区)
10月19日(火)、東京メトロ神楽坂駅近くにあるNPO法人「星槎教育研究所」にお邪魔し、アウトリーチ事業、フリースペース・居場所、星槎教育研究所自体の事業についてご説明頂き、その後施設を見学させていただきました。とくに訪問支援については、ひきこもり経験のある若者と一緒に訪問することでひきこもっている本人ともコミュニケーションが取りやすくなり、外に出ようという気持ちになる当事者の方も増えてきているとのことでした。
その後、場所を移して英明塾という不登校・ひきこもりの子ども・若者をサポートする活動を1975年から続けている河合雅久先生のお話をうかがいました。以下、河合先生のお話の一部を紹介いたします。
まず、支援について。支援方法はマニュアル化されることが多いですが、マニュアルはあってもそれをもとに「オーダーメード」にしていくという考え方、ゴールの設定も一人ひとり違うし、ゴールにたどり着くまでのプロセスもそれぞれ異なる、さらにゴールは支援の中で変わっていく、という基本的な姿勢をお話しいただきました。
訪問支援をどういうタイミングで始めるかに関しては、「
(そったく)」という言葉を教えていただきました。雛が卵からかえろうとするとき、雛が内からつつくのを「
」、母鳥が外からつつくのを「啄」というそうです。雛がつついた音を聞いて、親が外からそれをサポートする。このタイミングで支援できる関係が理想だといいます。

家族にとっても支援者にとってもこのタイミング、好機を見逃さないでサポートできるかが重要です。それを見落としてしまうと、また内側からつつくまで待たなくてはいけない。ただし、
は十人十色なので、いろいろな子がいろいろな表現の仕方をしてきます。表現の見極めは、やはり経験を積まないと難しいかもしれない、とのことです。
どの親御さんからも、「本人は自信がなく、外に出られない」というお話を聞くといいます。「どうして自信をなくしてしまったのかと辿っていくと犯人探しになります。しかし、過去のために生きているわけではなくて、将来のために生きているんだ、ということを本人が自覚して、その方向でやっていけると思えることが大事です。やりたいことや行きたいところが見えてこなければ自信も身につかないわけです。そのためには、まず心の傷をどうやって癒すかということが第一。その次に、興味を持つものを提示できることが大事なんだと思います。」
そのほか、最初に居場所に入るときは6人くらいの規模がちょうどいい、アスペルガーの子にはこちらの理屈を理解させるのではなく、本人の理屈に寄り添いながら気づいてもらうというスタンスが大切、といった具体的な対応の仕方についてもお話を頂くことができました。
10月4日(月)14:00-17:00
「コンパス実施団体見学と講義」
講演テーマ:包括支援に向けた他機関との連携について
NPO法人『「育て上げ」ネット』(立川市)
10月4日(月)、立川市のNPO法人『「育て上げ」ネット』の施設見学と講演がおこなわれました。はじめに立川駅近くの「たちかわ若者サポートステーション」と、同じ建物内にある長野県大町市のアンテナショップ「信濃大町 アルプスプラザ」を見学させていただきました。アンテナショップは若者の就労体験の場になっており、お店のスタッフの若者が緊張しながらも丁寧に商品の説明をしてくれました。
さらに『「育て上げ」ネット』の本部がある建物に移動し、自主事業である「ジョブトレ」やコンパス事業である「プレップ(居場所)」を見学させていただいた後、「包括支援に向けた他機関との連携」をテーマとした講演がおこなわれました。
包括支援に向けた連携として、『「育て上げ」ネット』内では、サポートステーションとプレップ(居場所)を並行して利用する人が多いとのことです。ただし、居場所からすぐに就労に結びつくことは難しく、働く前の段階として、これまで学ぶ機会のなかったビジネスマナーや働くことの意味を学べるようなトレーニングの場としてジョブトレがあることが説明されました。ジョブトレでは、商店街の人など直接外の人たちに接しながら、任された仕事を、責任を持ってやり終えることを学んでいきます。

ジョブトレで働く自信をつけた若者は、サポートステーションやハローワークと連携しながら、その人にあった求人案件を出してもらい、仕事を探していきます。働き始めた後は、「ウィークタイズ」というフォローアッププログラムが用意されており、何かあった時には相談に来られる体制がつくられているとのことです。
外部機関との連携としては、保健所、児童相談所、生活福祉課といった機関との連携があり、生活保護家庭や精神障害を抱えた人への対応もしているとのことです。居場所や、ジョブトレ、サポートステーションを利用しながら就労につながっていくケースもあり、その際に重要なことは、それぞれの機関が担う役割を話し合いながら支援を進めていくこととのことです。
「連携で一番怖いのは、役割分担ができていないために本人がとまどうことです。同じことを両方でやらされたり、両方で言うことが違ったりすると、真面目な方が多いのでとまどいます。そこの役割分担をきっちりと決めて支援しています。」
後半は、講師である『「育て上げ」ネット』若年支援事業部就労支援担当課長の古賀和香子氏と参加者が輪になって、外部機関との連携のあり方についてさまざまな話し合いがなされました。多様なバックグラウンドをもったスタッフがいることが重要である、連携する支援機関は実際に自分の目で見学させてもらうことが必要である、年齢の高いひきこもりの方はどの機関も引き受けられない難しさがある、ひきこもり支援は数年という長い目でみていく必要がある、など参加者それぞれの経験にもとづいた有意義な意見の交換ができました。
9月28日(火)14:00-17:00
「コンパス実施団体見学と講義」
講演テーマ:居場所の運営について
NPO法人文化学習協同ネットワーク(三鷹市)
9月28日(火)、最初に三鷹市のNPO法人 文化学習協同ネットワークの施設(フリースペース・コスモ、コミュニティベーカリー風のすみか)見学させていただきました。次に場所を移して「みたか地域若者サポートステーション」とそのフリースペースも見学させていただき、最後に「居場所の運営について」をテーマとした講演がおこなわれました。
コスモは、フリースペースとフリースクールの間のような居場所で、子どもたちがくつろいだ表情でそれぞれの活動に取り組んでいる様子が印象的でした。またコミュニティベーカリーは、あいにく見学当日は休業日だったのですが、自立支援プログラムに参加している若者たちが、パン作りに励んでいる様子を見学させていただきました。ベーカリーは若者と地域の人たちとの交流の場にもなっているとのことです。
NPO法人文化学習協同ネットワークでは、「若者支援事業」(コンパス事業、サポートステーション事業、基金訓練合宿型若者自立プログラム)のほか、「子ども支援事業」(文化学習センターという塾とフリースペース・コスモ)、「社会的事業」(コミュニティベーカリーやその食材をつくる農場)、「経済的困窮世帯の子ども・若者支援」、あわせて四つの事業を展開しています。もともとは地域の親たちが始めた塾が活動の源流になっており、若者支援事業においても「教育的な視点」を強くもっていることが団体の特徴であるということです。

講演ではNPO法人文化学習協同ネットワークの若者自立支援事業統括責任者である藤井智講師より、若者支援にとって重要な「居場所」については、3つの重要な柱があるというお話がありました。最大の柱は、「何よりもほっと安心できる安全な場所である」ということです。安全であるということは、他人の「評価の眼差し」から自由であるということで、若者や子どもは、他人から評価されることにおびえ、安心して自分をさらけ出すことができなくなっているという指摘がありました。「評価」におびえなく済む場所だからこそ、安心してそこにいることができ、そこで自己肯定感が育っていくとのことです。
二つ目の柱は、「人と人との関係が開かれている場である」ことです。「人との関係が開かれている」とは、孤立を乗り越えていく場であること、自分とは違う他者と出会う場であること、ロールモデルに出会う場であること、という3つの意味がこめられていることが紹介されました。
三つ目の柱は「自分探しの学びが生まれる場である」ということです。居場所が同時に「自分がどう生きるかという学びが生まれる場」であることが重要であり、そのためには社会に開かれた学びが存在すること、居場所に囲い込まないことが重要になってくるとのことでした。
若者支援にとって大事な考え方をお話いただいたあと、行きつ戻りつしながら自分の居場所を模索し、いきいきと自分の人生を生き始めた「Y君」の事例をお話いただき、支援の苦労や喜び、そして若者自身の心の変化をより深く理解することができました。
9月6日(月)10:00-12:30
「コンパス実施団体見学と講義」
講演テーマ:訪問支援、就労支援について
〔NPO法人青少年自立援助センター理事長〕工藤 定次 氏
9月6日(月)、福生市にあるNPO法人 青少年自立援助センターの施設見学、および同法人理事長の工藤定次氏による、「訪問支援・就労支援」をテーマとした講演がおこなわれました。
青少年自立援助センターは、1999年の設立以来、不登校・ひきこもり・ニート状態にある若者の自立のためのサポート活動をおこなってきた団体です。YSCの建物は、宿泊型支援施設となっており、生活改善をはじめ、学習サポートや労働体験など、若者支援のためのさまざまな活動がおこなわれています。
工藤理事長はまず、「ひきこもり」はいわゆる「ニート」とは違って誰かが社会とのつなぎ役としての働きをすることが支援の第一歩であり、「ひきこもり」支援にとっては「アウトリーチ」と呼ばれる家庭訪問型の支援が、公的サービスとして提供されることがたいへん重要であると強調されました。
支援現場におけるヒントも、たくさんお話いただきました。たとえば当事者の話を聞く場合、支援する側が辛い状態に陥らないためには、同じスタッフがずっとその人の相手をするのではなく、複数のスタッフが短時間で交代する対応が必要であるとのこと。「イヤだなと思って聞くぐらいなら、短時間で変わって少しずつ聞いていく方が理にかなっている」と具体的なアドバイスをいただきました。

また、当事者は「やりたい」「やらなきゃいけない」という願望を強くもっていますが、当人の願望と実際に「やれる」という現実との間には差があることを理解させることも重要であり、そのためには「一応できると思うけれど、まずはこのレベルからやってみたら」という形でシンプルなものから始めてもらい少しずつ「できない」現実を認めてもらうという方法をとっていくとのことです。
いずれにしても、「ひきこもり」から回復し、人と交わり働くことができるようになるためには、「コミュニケーション・スキルを高めるための訓練」よりも、「何か言われたときに共感して笑えるとか、相づちを打てるといった力」の方が重要であり「それができるまでに相当な時間がかかります」と、長年の支援経験から実感を込めて工藤氏は語られました。
豊富な支援の経験と実績に裏打ちされた、具体的かつ説得力のあるお話をうかがうことができ、支援の考え方やポイントを学ぶ貴重な機会となりました。
8月30日(月)14:00-16:00
「新ガイドラインの観点から考えるひきこもり支援のあり方」
〔国立国際医療研究センター国府台病院 精神科部門 診療部長〕齊藤 万比古 氏
8月30日(月)、渋谷区内の青学会館アイビーホールにて、午後2時より2時間にわたって、国立国際医療研究センター国府台病院 精神科部門 診療部長である、齊藤万比古先生を講師にお招きして、4回目の「ひきこもり等の若者支援団体向けセミナー」が開催されました。
今回は、「新ガイドラインの観点から考えるひきこもり支援のあり方」と題して、今年5月に齋藤先生を中心にまとめられた厚生労働省の新しいひきこもり支援ガイドラインのエッセンス、不登校とひきこもりの連続性などについて、分かりやすくお話いただきました。
今回のガイドラインの中では、10代の不登校からひきこもり状態への連続性を見すえた支援システムが必要であるということの観点から、それぞれの地域に、年齢で区切られないひきこもり支援システムをつくる必要性が訴えられています。
中学で不登校を経験した人の10年間を調査した齋藤先生の研究によると、不安定な10代の時期に継続的な支援がなされることが、20代以降の安定した社会参加につながるとのことです。「ひきこもり支援において10代というのが非常に重要です。10代は非常に揺れる。この揺れるのに合わせながら、支援を続けていくというスタンスが絶対に必要なんです。」

さらに齋藤先生の研究によると、10代での診断名は、その後の社会適応のよしあしにほとんど影響していないとのことです。「統合失調症と診断されたグループでも、25歳のときには、社会適応ができているかどうかの割合は他のグループと同じです。七対三ぐらいの比率で、適応している人・しない人に分かれています」。逆に、はっきりとしたうつ状態、家庭内暴力、妄想につながるほどの感覚の過敏さがみられるグループでは、20代以降もひきこもり状態が続くリスクが高い傾向がみられたとのことです。
齋藤先生によれば、ひきこもり状態にある人たちの中には、精神医療の専門家が関わる必要があるケースが多く含まれており、ひきこもりの支援は、3つの次元から複合的に考えられる必要があります。3つの次元とは、①ひきこもりの背景にある精神障害(発達障害・パーソナリティ障害を含む)への支援、②家族・支援機関といった本人にとっての環境の調整・改善、③思春期の自立過程の挫折に対する支援です。
こうした重層的な支援を実現するためにも、保健・医療・福祉・教育等の機関が「顔の見える連携ネットワーク」を形成し、包括的・総合的なケース会議の場を持つことが、支援する側にとっても、支援を受ける側にとっても大事であることが強調されました。
調査データに基づいて、継続的・長期的な支援のための制度づくり、支援の基本方針について、中身の詰まったご講演をいただきました。支援についての齋藤先生の考え方をさらに知りたい方は「ひきこもり支援の新ガイドライン」をお読みください。新ガイドラインは、国立国際医療研究センター国府台病院・児童精神科のホームページから無料でダウンロードすることができます。
8月18日(水)14:00-16:00
「発達障害者支援の現場における効果的実践を考える
~発達障害者支援センターにおける相談事例から~」
〔東京都発達障害者支援センター 主任支援員〕石橋 悦子 氏
8月18日(水)、日本生産性本部(渋谷区)にて、第3回コンパスセミナーが開催されました。東京都発達障害者支援センターの主任支援員である石橋悦子氏をお招きし、「発達障害者支援の現場における効果的実践を考える~発達障害者支援センターにおける相談事例から~」というタイトルで、発達障害者支援の最前線から、発達障害の特性、支援の難しさや望ましい方向性、必要な工夫などについて、じっくりとお話をうかがうことができました。
今回は「発達障害とは何か」という一般的な話ではなく、支援センターを利用されている方々の実態を中心にお話したい、ということで、日々向き合っていらっしゃる発達障害者本人、ご家族が抱える困難についての具体的な関わり方をお話していただきました。
支援センターには、昨年度だけで2,000件以上の相談があったとのことですが、そのうち4割は家族のみの相談とのことです。家族の相談ケースは、小、中、高校までは普通級で進んだけれど、学校を終えた後、社会に出られずにいるわが子を見て「発達障害」かもしれないと思った、というものが多いとのことです。本人の主訴としては、就職できない、就労してもうまく行かない、仕事がどうしてもできない、あるいはうつ状態等で受診したところ、アスペルガーの疑いがあると言われた、といったものが多いようです。
一般の職場では、多くの場合、本人をこちらのやり方に無理に合わせようとしますが、発達障害のあるケースでは、本人は一生懸命努力するけれどどれだけ努力してもなかなか変われない。そのため、発達障害については、本人の理解の仕方にあわせることが、支援の基本的な発想として必要とのことです。まず「本人の世界から、この社会がどのように見えているのか」を考え始めることで、はじめて支援が進んでいく、ということを具体的な事例から説明していただきました。
発達障害を抱えた本人がひきこもり状態になっており、親に対する激しい家庭内暴力がみられるケースでも、本人は「自分が理解されていない、理不尽なことを押し付けられている」という被害感でいっぱいになっているケースもあるとのことです。
対応としては、「一般的な基準を無理に押し付けるのではなく、本人の基準に合わせる」、「臨機応変な対応が苦手な人が多いが、気が利かないと本人を責めるのではなく、ひとつひとつ説明する」、「労働の対価を得られる場を、ある程度人工的にでも、小規模でも、少しずつ作っていく」ことが必要だろうと提案がありました。
「ひきこもり状態にある人の中には、発達障害を抱えており、それが社会参加の難しさにつながっているケースも多い」ということが、近年、厚生労働省の調査などでも言われるようになっています。発達障害の特性とそれに対してどのような取り組みが必要なのか、具体的で示唆に富んだお話を伺うことができました。
2010年7月20日(火)15:00-17:00
「青年期ひきこもりケースの理解と援助」
〔山梨県立精神保健福祉センター 所長〕近藤 直司 氏
7月20日(金)、国立オリンピック記念青少年総合センターにて、メンタルヘルス基礎セミナーに引き続いて、コンパスセミナーが開催されました。本セミナーでは、「青年期ひきこもりケースの理解と援助」と題して、山梨県立精神保健福祉センター所長の近藤直司氏からお話をうかがいました。
はじめに、「生物的要因」、「心理的要因」、「社会的要因」という3つの視点からひきこもりの背景をみることが大事だ、というお話があり、「生物的な要因」が明らかになることは、「社会的な要因」や「心理的な要因」を否定することでは決してない、という点が強調されました。一ケースは、つねに生物的、心理的、社会的な条件が複雑に絡み合って形成されている、という見方が大切だとのことです。
支援についても、薬物療法、心理的支援、社会的支援のいずれかでよい、ということではなく、3つの支援が必要に応じて適切に行なわれることが必要であるとの見方が示されました。「薬物療法が必要な人を、心理・社会的支援だけで抱えてしまうとまずいし、しっかりした心理・社会的支援が必要な人が薬漬けになっているのもまずいのです。」と近藤氏は言います。近藤氏の最新の研究では、薬物療法が必要だと判断されたのは、ひきこもりケース全体の3分の1だったとのことです。

また、「一般就労がゴールになる人もいるし、障害者雇用の制度を使って事業所で働く人もいる」と指摘され、「いろんなレベルの社会参加」を考えることが大切だということも、お話がありました。発達障害の人がひきこもっているケースもあり、一般就労だけを目標とすることは本人を追い詰めることになるため、精神保健福祉の専門家がどこかの段階でアセスメントを行なう必要がある、とのことです。
今回の講演では、ひきこもり問題をどうとらえたらよいのか、という基本的な見方から丁寧に説明していただきました。3つの視点からの支援をバランス考えていくことが大切である、という見方は、支援方針を固定せずに幅広くとらえなおすためにも、大変重要なことだと感じられました。当日は、さまざまな支援機関の方から、それぞれの立場で困っている点などについて質問がされ、近藤氏からは、ひとつひとつ具体的なアドバイスをいただくことができました。
2010年7月20日(火)13:00-14:50
メンタルヘルス基礎セミナー「いま企業では何が起こっているのか」
~企業の職場の現状とメンタルヘルス悪化を防ぐポイント~」
〔日本生産性本部 メンタル・ヘルス推進センター 課長〕飯田 進一郎



7月20日(金)、国立オリンピック記念青少年総合センターにて、コンパスセミナーが開催されました。今回のセミナーは、メンタルヘルス基礎セミナー「いま企業では何が起こっているのか~企業の職場の現状とメンタルヘルス悪化を防ぐポイント~」と題して、職場でのメンタルヘルスの問題を中心に、日本生産性本部メンタル・ヘルス推進センターの飯田 進一郎さんに講演いただきました。
これまで職場でのメンタルヘルスがどのように問題にされてきたのか、その歴史をたどりながら、現在の職場でつらい状況に置かれがちなのは、仕事量も多く、プレッシャーも高い30代であること、派遣社員で働く人のメンタルヘルスも問題になってきていること、などをお話いただきました。
「安全配慮義務」という言葉が紹介され、労災認定の裁判のケースなども交えながら、職場のメンタルヘルスに配慮することは、現場の管理監督者の義務であると考えられるようになってきていることが紹介されました。
2年前にできた労働契約法という新しい法律では、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」という文章があり、メンタルヘルスへの配慮は、「身体等」という部分に含まれるとのことです。
しかし、メンタルヘルスへの配慮とは、基本的には、「働いている人を大事にする」という姿勢のことだとのお話でした。また、お手洗いがきれいかどうかで、その会社の姿勢がわかる、といったこぼれ話もお話いただきました。
最近の傾向や最新の法律をわかりやすく解説していただき、若者の働く環境について考える、またとない機会となりました。また、NPO法人などの民間の支援団体や、そのほかの支援組織にとっても、スタッフの働く環境について、もう一度見直してみるための、大切な視点を提供していただきました。





















